万年筆とPILOTの歴史がつまったミュージアム「Pen Station(ペン・ステーション)」

日本を代表する筆記具メーカー「PILOT(バイロット)」創業の地、東京・京橋。そこで14年半の間、多くの人々に親しまれていた「Pen Station Museum & Cafe(ペン・ステーション ミュージアムアンドカフェ、以下ペン・ステーション)」。

国内随一の筆記具ミュージアムとして2002年に開館して以来、“お客様の顔が見える場所”としてパイロット社とユーザーを繋いできました。ペンステーション外観2016年3月末、パイロット本社建て替え工事に伴い惜しまれつつも閉館した同館ですが、「閉館後も館の様子を文房具ファンに語り継いでいけるよう、記事をつくりたい」と取材を申し込んだところ、特別にご対応いただきました!

蒔絵万年筆、キャップレス…貴重な資料が一同に!

「ペン・ステーション」は、京橋駅のほど近くに建つパイロット本社の1・2階にありました。1階は本格的なエスプレッソなどが楽しめる、ガラス張りの開放的なカフェ。その中にある階段を上ると、ミュージアムスペースが設けられていました。

penstation_33▲階段には世界各地にあるパイロット社の拠点の名が開設順に記されている

ミュージアムスペースは誰でも入場無料。展示されていたのは、約400点にも及ぶ貴重なコレクションです。そして、そのうちの約300点を占めていたのが、万年筆でした。penstation_13penstation_14それもそのはず。パイロットは今でこそ消せるボールペン「フリクションボール」シリーズなどでお馴染みですが、もともとは1918年に万年筆の製造・販売からスタートしたメーカー。

創業者の並木良輔氏が「日本から世界に誇れるものを送り出したい」と考え生み出したのが、純国産の高品質な万年筆だったのです。penstation_1penstation_29penstation_32
パイロット社が創業当初から現在までに生み出した多数の万年筆がずらりと並ぶ様子は、圧巻のひと言。

日本の伝統的な蒔絵技法でつくられた「蒔絵万年筆」や、それが世界的に注目されるきっかけとなった「ダンヒル・ナミキ万年筆」、人間国宝が手がけた貴重な蒔絵万年筆……。普段はなかなか目にすることのない芸術的な万年筆の数々に、多くの方が釘付けになっていたことでしょう。

また、世界ではじめての“キャップのない万年筆”として1963年に発売され、今なお進化を続けている「Capless(キャップレス)」についての展示も。penstation_3penstation_5半世紀以上に及ぶ「キャップレス」の歴史や、ノック式バタフライシャッターの内部構造模型など、愛用者なら思わず「へえ〜!」と声に出してしまう充実した内容でした。

書くこと=人類の歴史だった

「ペン・ステーション」では万年筆にかぎらず、“書く”こと、そして筆記具そのものの歴史を感じられる展示も充実していました。

penstation_8penstation_7▲かつて武士などの間で実際に使われていた携帯用筆記具「矢立(やたて)」

紀元前四千年から始まった“書く”ということの歴史を、粘土板に楔形文字を彫りつけた「葦ペン」、古代の「尖筆(スタイラス)」といった筆記具の資料を見ながら年代順に追っていくことのできる展示です。人類の歴史は書くことの歴史でもあったと改めて感じることができました。

同時に展示されていたパイロット社の歴史も興味深いものでした。

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館内にはかつてパイロットが万年筆を購入した顧客に定期的に送っていた「伺い状」の展示も。「お使ひ心地はいかがでせう?」と、アフターサービスも当時からバッチリだったんですね。penstation_22
こちらは商品を宣伝するチラシなのですが、なんと吸い取り紙に印刷されています。penstation_21読んだあとは吸い取り紙として有効活用できるなんて、一石二鳥ですね。

万年筆やボールペンの仕組みも学べる

館内には万年筆やボールペンといった筆記具の製造工程や仕組みを学べる展示も充実。中高生が課外授業で訪れることも多かったといいます。

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そのほか、パイロット製品の修理受付カウンターや、自由に手紙を書ける机、パイロット製品の数々を実際に試せるスペースなども設けられていました。

penstation_27▲パイロット製の万年筆やペンの修理を受け付けるカウンターpenstation_6▲たまにはゆっくりと手紙を書いてみませんか

「ペン・ステーション」という名に隠された秘密

京橋駅の目の前という立地と「Stationery(ステーショナリー)」という英語をもとに名づけられた館名「Pen Station(ペン・ステーション)」ですが、実はもうひとつ、名前の由来となったエピソードがあります。

先述のとおり創業当初から積極的に海外進出を行っていたパイロット社(当時の並木製作所)。1920〜30年代、市場開拓のためにアメリカに赴いた営業マンが、長い出張を終え、ニューヨークのペンシルバニア駅にたどり着くと、「コノ度ノ出張モ大変デアッタガ、成果ヲアゲテ紐育(ニューヨーク)二戻ルコトガデキタナァ」と感慨にふけったそう。そのペンシルバニア駅の通称が「ペン・ステーション(Penn Station)」だったのです。

筆記具の歴史、そしてパイロット社の歴史と想いがつまった「ペン・ステーション」。「この展示を見てすっかり万年筆の虜になってしまいました」というファンもいるほどに、魅力的な展示内容でした。

本社の建て替え後にまたこういった施設がつくられるかどうかは、未定だそうです。

なお、パイロット社の平塚事業所(神奈川県平塚市)にある「蒔絵工房 NAMIKI」に足を運べば、現在でも蒔絵万年筆のコレクションを目にすることができます。見学の際は予約が必要となりますので、詳細は公式サイトでご確認くださいね。

最後に、「ペン・ステーション」に14年間の感謝の気持ちを込めて。

(Photo by 藤本厚

Information

PILOT(パイロット) 公式サイト
http://www.pilot.co.jp/

「蒔絵工房 NAMIKI」詳細
http://www.pilot.co.jp/press_release/2015/01/15/post_3.html

– No Stationery, No life. 毎日、文房具。–– No Stationery, No life. 毎日、文房具。–